塗布装置の引き合いを初めて自分で出したとき、メーカーから返ってきたのは見積書ではありませんでした。
「材料の粘度と、1ワークあたりの吐出量を教えてください」という質問状です。
こちらは値段を聞いたつもりが、相手は装置を決めるための材料情報を先に求めていたわけです。
柴田孝之と申します。
電子部品メーカーの生産技術に20年いて、接着や封止の工程で塗布装置を立ち上げてきました。
いまは独立して、中小の製造現場で設備導入の相談に乗っています。
見積もりが一発で出る会社と何往復もする会社の差は、この最初の情報です。
メーカーの選定シートは、装置ではなく材料から聞いてくる
ナカリキッドコントロールの商品選定申し込みフォームは、記入欄の並びがそのまま答えになっています。
上から順に、材料液の種類、樹脂メーカー、主剤の粘度、比重、フィラー含有の有無、ポットライフ。
装置の話が出てくるのは、そのあとです。
粘度の欄は「mPa・s/20℃」「mPa・s/25℃」と、温度とセットで書く形になっていました。
数字を1つ書けば済む欄ではありません。
その下に、作業内容(充填、接着、線引き、スプレー、マーキング)、1ワークあたりの吐出量、吐出時間、1日の稼働時間と生産数、予算額、希望納期と続きます。
聞かれることは、だいたい決まっている。
だったら先に用意しておけば、1往復で終わります。
そろえておきたい5つの情報
| そろえるもの | 入手先 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 樹脂メーカーと品番 | 購買部門、材料の受入伝票 | 「エポキシです」では絞れない |
| 温度つきの粘度 | 材料メーカーの技術資料 | 測定温度のない数字は使えない |
| フィラーの有無と種類 | 材料メーカーへの問い合わせ | 「たぶん入っている」では判断できない |
| 1ワークあたりの吐出量 | 図面、現行工程の実測 | 重さか体積かを決めておく |
| タクトタイムと日産数 | 生産計画 | 将来の増産分を含めるか決める |
厄介なのは粘度です。
材料にはSDS(安全データシート)が付いてきます。
厚生労働省の解説によると、政令で定められた対象物質については、平成12年4月から労働安全衛生法で提供が義務づけられました。
そのSDSの9項目めが「物理的及び化学的性質」で、粘度の欄もあります。
欄があることと、数字が入っていることは別です。
厚生労働省のエポキシ樹脂中間体のモデルSDSを見ると、粘度は「データなし」でした。
SDSは安全のための文書なので、工程設計に使う数字までそろっているとは限りません。
粘度は材料メーカーの技術資料を当たるか、営業担当に測定温度つきで出してもらうのが早いです。
フィラーは有無だけでなく、種類まで押さえておくと話が進みます。
硬い粒子はポンプの摺動部を削るので、装置側の材質選定に直結するからです。
数字がそろっても、最後はテストになる
粘度は温度で動きます。
産業技術総合研究所の液体流量測定における物性値という資料にも、軽油や灯油を20℃と35℃で流すと容積流量計の特性が動粘度の違いで変わる実測データが載っています。
それでも先に数字を出す意味はあります。
装置ごとに対応できる粘度の範囲が決まっていて、そこで候補が絞られます。
たとえば高粘度の材料の塗布に対応したディスペンサの仕様ページを見ると、使用可能粘度は1〜1,050,000mPa・s、吐出量範囲は0.4〜7.5ml/shotと書かれています。
ポンプ内の耐圧を19.6MPaまで高めることで、この粘度域に対応しているそうです。
自社の材料が何十万mPa・sの世界にいるなら、この手の仕様を持つ機種しか残りません。
そこまで絞ってからテストに進めば、確認したい条件もはっきりします。
まとめ
見積もりが遅い原因は、私の場合はたいていこちら側の情報不足でした。
- 樹脂メーカーと品番
- 温度つきの粘度
- フィラーの有無と種類
- 1ワークあたりの吐出量
- タクトタイムと日産数
この5つをそろえてから問い合わせると、返ってくるのが質問状ではなく仕様書になります。
集めるのに2日か3日はかかりますが、そのぶん後ろの工程が確実に早い。
私はいまでも、この順番でやっています。
