オリムピックナショナルゴルフクラブ。
この名前を聞くだけで、ゴルファーの心は高揚するのではないでしょうか。
埼玉県毛呂山町の丘陵地に広がる、EAST（18H）とWEST（27H）合わせて全45ホールを擁するビッグスケール。
そして何より、ダイ・デザインとジム・ファジオという、ゴルフコース設計界の世界的巨匠が競演を果たした、稀有な舞台です。
私はこれまで、ゴルフ専門誌の編集者として、数多くのコースを取材し、設計者の思想を紐解くことに情熱を注いできました。
特に、このオリムピックナショナルを特集したムックを制作した経験から、このコースが単なる「豪華なゴルフ場」ではないことを知っています。
それは、土地の歴史、設計の思想、そして自然条件との折り合いの産物であり、「丘を読むペンを持つゴルファー」としての私の探究心を最も刺激する場所の一つです。
しかし、どんな名門コースにも、ゴルファーが陥りやすい「罠」があります。
私自身、かつてコースの高低差の表現で読者から厳しいご指摘をいただいた経験から、地形の真実を伝えることの重要性を痛感しています。
この記事では、オリムピックナショナルでスコアを崩し、後悔の念に駆られるゴルファーを何人も見てきた私が、「避けるべき3つの致命的なミス」を、設計思想と地形の物語に触れながら、具体的にお伝えします。
この記事を読み終える頃には、あなたはオリムピックナショナルの“共犯者”として、次の一打をどう組み立てるべきか、明確な戦略を持っているはずです。
さあ、この壮大な舞台を共に歩き、その戦略美を感じてみましょう。
目次
ミス1：設計者の「地形の囁き」を無視するミス（EASTコースの罠）
オリムピックナショナルEASTコースは、旧エーデルワイスGCのレガシーを引き継ぎ、ダイ・デザイン社が手がけた進化系オールドスコティッシュスタイルが特徴です。
このコースで多くのゴルファーが陥る最初のミスは、「地形の囁き」、すなわち設計者が意図的に仕掛けた視覚的な錯覚や、マウンドの持つ意味を無視してしまうことです。
マウンドが引き起こす「視覚的錯覚」への無頓着
EASTコースの景観は、マウンドを多用した美しい造形で構成されており、まるでイングランドの丘を彷彿とさせます。
このマウンドこそが、ダイ・デザインの戦略の核心です。
- マウンドの役割：
- 視覚的な距離感の撹乱：フェアウェイやグリーンの手前に配置されたマウンドが、実際の距離よりも近く見せたり、遠く見せたりする効果を生みます。
- ハザードの隠蔽：マウンドの裏にバンカーや池が巧妙に隠されていることがあり、ティーショットやセカンドショットでターゲットが見えにくい状況を作り出します。
私が過去に高低差の表現で失敗した経験から言えるのは、「目測は必ず裏切る」ということです。
特にEASTコースでは、見た目の優美さに惑わされず、必ずヤーデージブックとGPSで正確な距離を確認することが、このミスを避ける唯一の方法です。
伝統的なハザードを「ただの障害物」と見なす過ち
オールドスコティッシュの伝統が生きるEASTコースでは、バンカーやラフといったハザードは、単なる障害物ではありません。
それらは、設計者が「このルートは危険だ」「この角度から攻めろ」と語りかけてくる、戦略的なメッセージなのです。
- 避けるべき思考：
- 「バンカーは避ければいい」という安易な思考。
- 「ラフはただのペナルティ」と割り切ってしまうこと。
ダイ・デザインのコースでは、バンカーの配置が、「安全なルート」をあえて狭く見せることで、ゴルファーに心理的なプレッシャーをかけます。
このプレッシャーに屈し、力任せに振ってしまうと、ボールはマウンドの傾斜で思わぬ方向に跳ね、深いラフや隠されたハザードへと吸い込まれていきます。
「芝目の囁き」を聞き、マウンドの頂点ではなく、その先のランディングエリアを冷静に見極める知的なプレーが求められます。
もちろん、戦略を練るだけでなく、ラウンド後の楽しみも重要です。
EASTコースのレストランの口コミを事前にチェックしておくと、オリンピックナショナルでの一日がさらに充実したものになるでしょう。
ミス2：雄大な打ち下ろしを「力任せ」に攻めるミス（WESTコースの誘惑）
オリムピックナショナルWESTコースは、ジム・ファジオ氏が監修したモダンクラシックスタイルであり、先進的でダイナミックなレイアウトが特徴です。
特にWESTコースのシバザクラ1番は、雄大な打ち下ろしが名物ホールとして知られています。
このダイナミックな景観は、ゴルファーの闘争心を煽りますが、ここで陥りやすいミスが「雄大さに酔い、力任せに攻める」ことです。
打ち下ろしでの「距離感の詐称」を見抜けない
シバザクラ1番のような打ち下ろしホールでは、視覚的な開放感から、つい力が入ってしまいがちです。
しかし、私がコース取材で徹底しているように、標高差を数値で捉えることが、このミスを防ぐ鍵となります。
- 距離感の罠：
- 打ち下ろしは、実際よりも距離が短く見えます。
- しかし、力んでしまうと、スイングが乱れ、ボールの高さやスピン量が変わってしまい、結果的に距離が合わなくなります。
ファジオ・デザインは、この打ち下ろしを単なるサービスホールとしてではなく、「知力も問われる」戦略的なホールとして設計しています。
「風が読む」という表現を使いますが、打ち下ろしでは風の影響も受けやすく、番手選びが非常に重要になります。
攻略のヒント：
- 冷静な番手ダウン：打ち下ろしの度合いに応じて、通常よりも1～2番手下げて、コントロール重視で打ちます。
- フィニッシュを意識：力まず、最後まで美しいフィニッシュが取れるスイングを心がけることで、ミート率が向上し、結果的に飛距離も安定します。
フラットなホールでの「ハザードへの油断」
WESTコースには、カメリアコースのようにフラットながら池やバンカーが行く手を阻むホールも存在します。
打ち下ろしでダイナミックなプレーをした直後、フラットなホールに入ると、ゴルファーは無意識に「簡単になった」と油断しがちです。
この油断こそが、ファジオ氏が仕掛けた「ファジオマジック」の核心です。
フラットなホールでは、ハザードがより明確に見えますが、その分、「どこに打てば安全か」という選択肢が狭められていることが多いのです。
- 避けるべき行動：
- ティーショットで、池やバンカーを避けようとしすぎて、逆にOBや林に打ち込んでしまう。
- セカンドショットで、グリーン周りのバンカーを気にしすぎて、ショートしてしまう。
「起伏を官能する」ようなWESTコースの体験は、常にゴルファーに「リスクとリターンのバランス」を問いかけます。
ハザードを恐れるのではなく、設計者の意図を読み取り、「攻めるべきエリア」を明確に定めて、そこに打ち込む勇気を持つことが重要です。
ミス3：45ホールのスケールに「戦略の切り替え」を怠るミス
オリムピックナショナルゴルフクラブの最大の魅力であり、同時に最大の罠となるのが、EASTとWESTという異なる設計思想を持つ45ホールというスケールです。
多くのゴルファーが犯す3つ目のミスは、「コースが変わっても戦略を切り替えない」という、思考の怠慢です。
オールドスコティッシュとモダンクラシックの「思考の壁」
EASTコースはダイ・デザインによる伝統的な戦略性、WESTコースはファジオ・デザインによる先進的な戦略性を持っています。
この二つのコースを同じ日に、あるいは続けてラウンドする際、ゴルファーは「思考のギアチェンジ」を意識的に行わなければなりません。
| 要素 | EAST（ダイ・デザイン） | WEST（ファジオ・デザイン） |
|---|---|---|
| 攻略の鍵 | 地形（マウンド）と伝統的なハザードへの対処 | 距離感とダイナミックなレイアウトへの知的な対処 |
| 求められるプレー | 忍耐力、正確な距離感、低い弾道でのコントロール | 積極性、リスクを恐れない攻め、高い弾道でのピンデッド |
| 思考のスタンス | 守りから入る：ハザードを避け、安全なエリアから攻める | 攻めから入る：ターゲットを明確にし、積極的にスコアを取りに行く |
この「思考の壁」を乗り越えられないと、EASTで成功した「守りのゴルフ」をWESTに持ち込みすぎてスコアを伸ばせなかったり、逆にWESTで勢いづいた「攻めのゴルフ」をEASTに持ち込み、マウンドやバンカーに捕まって大叩きしたりする結果を招きます。
統合の歴史が示す「二つの物語」を理解する
オリムピックナショナルは、旧エーデルワイスGCと旧鶴ヶ島GCが統合して誕生した歴史を持っています。
これは、単にホール数が増えたということではなく、「二つのゴルフの物語」が一つになったことを意味します。
私の執筆の動機は、ゴルフ場が土地の歴史や設計の思想の産物であることを伝えることです。
このコースを攻略するためには、「EASTではダイ・デザインの哲学を、WESTではファジオ氏の哲学を尊重する」という、設計者への敬意が不可欠です。
- EAST：伝統的な美しさの中で、「いかにパーを拾うか」という忍耐のゴルフ。
- WEST：ダイナミックな景観の中で、「いかにバーディチャンスを作るか」という積極性のゴルフ。
この二つの物語を理解し、ラウンド中に戦略を切り替える柔軟性こそが、45ホールを制する真の鍵となります。
結論：次の一打を共に想像しよう
オリムピックナショナルゴルフクラブは、ゴルファーにとって最高の挑戦状です。
世界的巨匠が仕掛けた戦略美は、単なる技術だけでなく、知性と哲学を要求してきます。
この記事で解説した「避けるべき3つのミス」を心に留めておけば、あなたのラウンドは劇的に変わるはずです。
避けるべき3つのミス：再確認
- ミス1（EAST）：マウンドによる「地形の囁き」を無視し、視覚的な錯覚に惑わされること。
- ミス2（WEST）：雄大な打ち下ろしで「力任せ」に攻め、距離感を狂わせること。
- ミス3（全体）：EASTとWEST、二つの設計思想に対する「戦略の切り替え」を怠ること。
このコースは、単なるスポーツ施設ではなく、土地の歴史と設計の思想が息づく場所です。
ラウンド前には、ぜひ地形図やコースガイドを広げ、設計者の意図を深く読み解いてみてください。
そうすれば、あなたは単なるプレーヤーではなく、この壮大なコースの「共犯者」として、その戦略美を心から味わえるでしょう。
さあ、次のティーショットを共に想像しよう。
あなたの手には、どのクラブが握られていますか？
そして、その一打は、設計者の哲学とあなたの戦略、どちらに導かれたものですか？
最高のラウンドになることを、心から願っています。
