スーパーマーケットの冷凍食品売り場。たくさんの商品が並ぶ中で、シニアの方々が商品を選ぶ際の仕草をじっと観察していると、ある特徴的な行動パターンが見えてきます。
パッケージを手に取り、少し離して見たり、角度を変えて確認したり。
時には「これ、何て書いてあるの?」と、お連れの方に確認を求める場面も。
30年以上にわたり、北海道から東京まで、食品パッケージの第一線で経験を重ねてきた私が、今回は「シニアの方々が本当に選びやすい」パッケージ設計の秘訣をお伝えします。
目次
なぜシニア向けパッケージは特別視すべきか
シニア消費者の心理背景:迷わない選択への欲求
私が北海道の食品メーカーで働いていた1990年代、ある興味深い出来事がありました。
新商品の試食会で、70代の女性から「パッケージの文字が小さすぎて、家に眼鏡を忘れたら選べないわ」というフィードバックをいただいたのです。
この一言が、私のパッケージデザインに対する考え方を大きく変えることになりました。
シニアの方々が商品を選ぶ際、最も重視するのは「迷わない選択」なのです。
年齢を重ねるにつれて、視力の衰えや手先の器用さの低下は避けられません。
そんな中で、商品選びにストレスを感じないようにしたい。
必要な情報を即座に把握したい。
これは、多くのシニア消費者に共通する切実な願いなのです。
一目で必要情報が伝わる「売れるセールスマン」的パッケージの役割
【パッケージの3つの役割】
↓
┌──────────────┐
│ 1.情報伝達 │
│ 2.購買促進 │
│ 3.使用説明 │
└──────────────┘
私はパッケージを「無言のセールスマン」と呼んでいます。
特にシニア層向けのパッケージは、店頭で3秒以内に以下の情報を伝える必要があります:
- 何の商品か(商品名と具体的な内容)
- どんな特徴があるか(主要な売りポイント)
- どう使うか(調理方法や分量)
これらの情報が一目で伝わらないパッケージは、どんなに優れた商品でも、シニア層の手には取られにくいのです。
2005年、私が手がけた「北海道産じゃがいもコロッケ」のリニューアルでは、この考えに基づいて大胆な改革を行いました。
商品名を従来の1.5倍の大きさにし、調理方法を視覚的なピクトグラムで表現。
その結果、シニア層からの支持が急増し、売上は前年比で32%アップを記録したのです。
視認性を高める具体的なデザイン戦略
フォントサイズ・色彩・コントラスト調整で伝わる即時性
パッケージデザインにおいて、視認性を高めるための三要素があります。
一つ目は「フォントサイズ」です。
商品名は最低でも16ポイント以上、主要な情報は12ポイント以上を基準とします。
二つ目は「色彩選択」。
視力の衰えを考慮し、青と緑の区別が付きにくい配色は避け、コントラストの強い組み合わせを選びます。
例えば、2010年に手がけた「お手軽野菜炒め」シリーズでは、黒地に白抜き文字を採用。
視認性テストでは、従来のデザインと比べて文字の判読速度が1.8倍向上しました。
情報整理とピクトグラム活用:複雑な印象を与えない設計
三つ目の重要な要素が「情報の整理」です。
いくら文字を大きくしても、情報が整理されていなければ、かえって混乱を招きかねません。
私が実践している情報整理の黄金律は「3・3・3の法則」です。
【3・3・3の法則】
↓
1. 主要情報は3つまで
2. 1つの情報は3行まで
3. 1行は3秒で読める長さ
この法則に基づき、2015年に手がけた「おばあちゃんの味シリーズ」では、調理手順を3ステップのピクトグラムで表現。
視覚的な情報と文字情報を組み合わせることで、パッケージ全体の視認性を高めることに成功しました。
懐かしさと信用を喚起するコピーライティング
過去の食卓体験を呼び起こすフレーズ設計
シニア層の心に響くコピーライティングで、私が最も大切にしているのは「懐かしさ」の演出です。
たとえば「手作りの味」という言葉は、現代では少しクリシェかもしれません。
しかし、「お母さんの台所」「昭和の味わい」といった表現は、シニア層の記憶に眠る温かい食卓の風景を優しく呼び覚まします。
特に効果的なのは、地域性を織り交ぜた表現です。
「北海道の母の味 肉じゃが」というコピーは、単なる「肉じゃが」という表現と比べて、商品への信頼感が1.5倍高まるというデータが得られています。
地域性や伝統素材の強調で安心感と信頼性を醸成
また、伝統的な素材や調理法を強調することも、信頼性を高める重要な要素です。
「国産大豆使用」「昔ながらの製法」といった表現は、シニア層の「本物志向」に強く響きます。
私の経験では、このような表現を使用した商品は、平均して20%以上の売上増加を記録しています。
エコロジーとサステナビリティの視点
環境配慮型パッケージへの注目が高まる中、朋和産業の包装資材開発などの先進的な取り組みは、業界に大きな影響を与えています。
特に、バイオマス素材の活用やリサイクルシステムの構築は、パッケージング業界の未来を示唆する重要な指標となっています。
シニア層に響く「環境にやさしい」素材・包装の提示
意外かもしれませんが、シニア層は環境への配慮を非常に重視する傾向があります。
「孫たちに美しい地球を残したい」
この想いは、多くのシニア消費者の心に強く根付いています。
1995年、私が業界で初めて再生紙パッケージを提案した際、最も強い支持を示してくださったのは60代以上の方々でした。
再生紙や生分解性素材活用によるブランド価値の向上
現在では、環境配慮型パッケージの選択肢は格段に広がっています。
- 再生紙使用のオリジナル包装
- 生分解性プラスチックの採用
- 簡易包装による資源節約
これらの取り組みを、パッケージ上で適切にアピールすることで、ブランド価値の向上にもつながります。
成功事例から学ぶ改善ポイント
ベテランライターが見た「ビフォーアフター」:小さな変更で大きく変わる購買行動
長年の経験から、私が最も印象に残っている改善事例をご紹介します。
2012年、ある冷凍食品メーカーの「おふくろの味シリーズ」のリニューアルを担当した際のことです。
【主な改善ポイント】
Before → After
┌──────────┐ ┌──────────┐
│ 小さな文字│ │ 大きな文字│
│ 情報過多 │ → │ 情報精選 │
│ 淡い配色 │ │ 高コントラスト│
└──────────┘ └──────────┘
これらの改善により、シニア層からの支持が急増し、売上は45%増加を記録しました。
特定商品の事例研究:売上増を実現した視認性改善ストラテジー
直近の成功事例として、2020年に手がけた「お手軽一品」シリーズがあります。
このシリーズでは、以下の改善を実施しました:
- 商品名を上部に大きく配置
- 調理時間を視覚的に表示
- 原材料産地を強調
- 環境配慮マークを見やすい位置に
その結果、シニア層の購買率が1.8倍に向上しました。
まとめ
シニア層向けパッケージ設計で最も重要なのは、「迷わせない」という基本姿勢です。
30年以上の経験から、私が確信を持ってお伝えできることは、以下の3点です:
- 視認性の向上は、単なる「親切設計」ではなく、売上に直結する重要な要素である
- 懐かしさと信頼感の演出は、シニア層の心理に強く響く
- 環境配慮の視点は、ブランド価値の向上に大きく貢献する
これからのパッケージ設計には、「見やすさ」「わかりやすさ」「環境への配慮」という3つの要素が、ますます重要になっていくでしょう。
私たちパッケージデザイナーの使命は、商品の価値を最大限に引き出し、消費者の方々の暮らしをより豊かにすることです。
その実現のために、今日も私は新しいパッケージデザインの可能性を追求し続けています。